キス・キス

Posted 2012-12-15

ロアルド・ダール(開高健=訳)。この短編集のなかに『誕生と破局』という題の一編がある。1889年4月20日、オーストリアとドイツの国境の町で一人の男の子が誕生した。父親の三度目の妻は、子供を三度亡くしていた。四度目の赤ちゃんが誕生したとき、薄幸な母親は、「この子だけは永生きしなければ。神さま、御恵みがこの子の上にありますように・・」と祈りをささげた。この子は56歳でベルリンの地下室で亡くなったのですが、私はこの短編を読む度に、諸行無常などと乙に澄ませなくなります。高見の見物ではないのだ。