方丈記私記
Posted 2011-06-17
堀田善衛。この本の一行目に著者は記す。「私が以下に語ろうとしていることは、実を言えば、われわれの古典の一つである鴨長明『方丈記』の観賞でも、また、解釈、でもない。それは、私の経験なのだ」。1945年3月、東京大空襲のただなかで、著者は『方丈記』を痛切に経験した。私は、木版画制作を通して、仏像を仏を、経験しているであろうか、と自問する。私の版画制作室は、正方形(8畳)の間である。私は、この方丈の間で、版画ものうく制作ならぬときは、自ら休み自ら怠る。妨げる人もなく、また恥ずべき人もなし。