清陰星雨

Posted 2011-03-05

中井久夫。精神科医が日常から世相までを丹念に綴るエッセイ。1990年から12年間、神戸新聞に年4回連載された。この著者の静かな語り口を読むと、精神科の臨床カウンセリングを受けているような安らかな心地に包まれる。「癒し」とはいうまい。精神科医の目で「傷」をまっすぐ見つめる言葉が、深い知性にクッションされて、柔らかに軟着陸する。アートも傷です。わたしの版画制作で熱くなった頭には、この本の言葉が水のように染み入ります。アトリエの躁鬱病を鎮めるのは、極上の酒ではなく一杯の水なのです。