火を熾す

Posted 2011-07-29

ジャック・ロンドン(柴田元幸=訳)。九つの短編を収める一冊。なかでも私が心を打たれるのは「メキシコ人」と題する一編。ボクシングのリングとメキシコ革命が並行して描かれる小説。リングで殴られることも革命で立ち上がることも、痛いことなのだ。私はその痛みに鞭打たれるように、この一編を読む。痛い、痛いと叫んだり説いたりする舌の長い言葉ではなく、黙々と腕立て伏せをする男の胸から滴り落ちる汗の一滴一滴のような言葉で語られる、寡黙ながら雄弁な作品。願わくば男の仕事は、かくありたい。