笛吹川

Posted 2011-07-22

深沢七郎。異様な作品である。武田信玄が治めていた時代、領地の笛吹橋の袂に生きる一家族の興亡を描く小説。現実というのは愛想もない過酷で非情な世界だが、現実を題材とする作品世界は言葉によって物語化される。物語化した時点で現実と切り離される。この作品は容赦ない現実を、そのまま写す。現実は言葉を必要としない。この作家は言葉を信用しない。生と死の無意味、物語の無視、解説を拒否する小説が異常な世界を写す。この異常が現実の正常なのだ。「真似をしてはいけません」。私はこの本を閉じる。