青べか物語
Posted 2011-02-11
山本周五郎。作者は昭和初年、千葉県浦安町に数年住んだ。その経験を元に30年後に書かれた、ノン・フィクションに見せかけた精巧なフィクション。この小説には濃厚な経験の気配はあるが、作者は大声で叫ばない。文章の背後、人形芝居の黒子の位置から、作者は静かに経験を語る。わたしは、実際の経験と作家の作品の距離について思う。経験が発酵して姿形を変え、蒸留、濾過、精製に30年かけた極上の酒のような創り話。その酒の一滴が、「苦しみつつ、なおはたらけ、安住を求めるな、この世は巡礼である」。