断腸亭日乗
Posted 2011-04-29
永井荷風。大正6年から昭和34年まで書きつづけられた日記。この小説家は「既に余命いくばくもなきを知り」と書きつけて、実人生を降りて隠居暮らしのフテ寝を決め込んだが、震災、戦争、銀座、浅草を舞台に、42年間にわたる長編自史を日記体で書きつづけた。偏狭な執念や固執する嗜好を超えるぶっ太い精神の火柱を、42年間貫き通す。火柱は自らの死を前に段々と細くなり、月日と天候のみの記述となる。そして死の前日、『四月二十九日。祭日。陰。』 ローソクの灯し火がふっと消える瞬間に、読者は立ち会う。