書物漫遊記
Posted 2012-06-16
種村季弘。博覧強記の著者による書評集。書評というより、一冊の本を中心に置いた日常風景や過去の心象を描いた随筆集。例えば「我が闘争」と題された一章は、ヒトラーの絶叫する演説ではなく、吉田健一の忍び笑いを描く。吉田健一の小説に触発された著者は、小説の舞台の田舎町へ行こうと家を出る。駅へ向かう途中で気が変わって、鮨を買い馴染みの酒場へ足を変える。馴染みの娘と共に鮨と酒を平らげて、旅に出る金が消える。これでよし。森羅万象に対して、妄せず執せず、従容と淡々と、多情多恨の漫遊記。